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ティクーン・デボーション No.19

  • tikkunjppartner
  • 2021年6月25日
  • 読了時間: 7分

2021年6月21日

使徒の働き15:13 ふたりが話し終えると、ヤコブがこう言った。「兄弟たち。私の言うことを聞いてください。14 神が初めに、どのように異邦人を顧みて、その中から御名をもって呼ばれる民をお召しになったかは、シメオンが説明したとおりです。15 預言者たちのことばもこれと一致しており、それにはこう書いてあります。16 『この後、わたしは帰って来て、倒れたダビデの幕屋を建て直す。すなわち、廃墟と化した幕屋を建て直し、それを元どおりにする。17 それは、残った人々、すなわち、わたしの名で呼ばれる異邦人がみな、主を求めるようになるためである。18 大昔からこれらのことを知らせておられる主が、こう言われる。』19 そこで、私の判断では、神に立ち返る異邦人を悩ませてはいけません。20 ただ、偶像に供えて汚れた物と不品行と絞め殺した物と血とを避けるように書き送るべきだと思います。21 昔から、町ごとにモーセの律法を宣べる者がいて、それが安息日ごとに諸会堂で読まれているからです。」



オリーブ山から見たエルサレム旧市街:David Trubek師提供


1 使徒の働きに描かれている初代教会の姿について、これまでの通説は、12使徒を中心とするヘブライオイ(ユダヤ民族主義・神殿とトーラー(律法)の重視)と7人の執事を輩出したヘレニスタイ(普遍主義・神殿とトーラー(律法)に対するリベラルな態度)の対立において捉え、やがて紀元70年のエルサレム神殿崩壊によって、主の兄弟ヤコブが率いた前者の潮流(ヘブライオイ)が衰退し、ステパノ-パウロの線に立つ後者の潮流(ヘレニスタイ)が勝利を収めていったと説明してきました。そして、彼らは、ヘブライオイの頭目をエルサレム教会の主教である主の兄弟ヤコブであると理解し、アンテオケ派ヘレニスタイのリーダーであるパウロと対立的に描こうとしてきたのです。


しかし、このような理解の仕方は、使徒の働き15章を読み進めると、すぐに破綻することが分かります。すなわち、割礼派の教えに対して、まず12使徒のリーダーであったペテロ自身が、ヘレニスタイとされるパウロやバルナバの意見を支持する証言をしています(同7-11節)。そして、何よりも、ヘブライオイの頭目とされた主の兄弟ヤコブ自身が提示した見解こそが、エルサレム教会のみならず、アンテオケやその他離散地の教会も含む全教会の見解となりました。パウロやバルナバも心からこの見解を受け入れたからこそ、諸教会に派遣されることを喜んで引き受けたのです(使徒15:31)。以上から、主の兄弟ヤコブやエルサレム教会をヘブライオイ=割礼派として、アンテオケ教会やパウロ神学と対決的に理解する構図は全く成り立たないことは明らかです。


2 そもそも、エルサレム教会を構成していた主流派は、主としてユダヤ人信者から成る「ナザレ派」と呼ばれるグループであったというのが、近年の研究成果から分かってきたことです。ナザレ派という言葉自身が、使徒24章5節「この男(=パウロ)は、まるでペストのような存在で、世界中のユダヤ人の間に騒ぎを起こしている者であり、ナザレ人という一派の首領でございます。」に由来する言葉(蔑称)です。ナザレ派の信仰の特徴は、イエスを神の御子でありメシアであると信じること、そして自らはモーセの律法に従って生きるが異邦人の兄弟には同様の要求をしないこと、でした。これはまさに、上述のエルサレム会議における見解と全く一致するのであり、結局、ペテロも主の兄弟ヤコブもパウロも、みなナザレ派と呼ばれる主流派に属していたということなのです。


 そして、エルサレム教会の主流を構成していたナザレ派は、エルサレム神殿の崩壊後も長く4世紀まで存続していたことが確認されています。というのも、ジェロームやエピファニウスなどの教父らの著作によって、紀元4世紀には、彼らは少数派ではあるがイスラエルやシリア全域に存在し、パウロの使徒性と異邦人宣教を承認していたこと、そしてヘブル語の福音書(おそらくマタイ福音書)を持ち、トーラー、割礼、安息日を引き続き尊んだことが記録されているのです。また、少なくとも、紀元135年(バル・コフバの反乱)までは、強力なユダヤ人信者の教会がエルサレムに存在し、異邦人の信者に対して指導的な影響力を発揮しただけでなく、ラビ的ユダヤ教に対しても大きな挑戦として受け止められていたことが指摘されています。それゆえ、紀元66-70年の第一次ユダヤ戦争において、ユダヤ人信者らは従軍を回避してペラに逃避したため、それ以降、ユダヤ人の間で裏切り者とみなされて急速に力を失っていった、という通説的理解には根拠がないと批判する見解もあります(Skarsaune,‘In the Shadow of the Temple’(InterVarsity Press,2002年) 197頁)。


3 では、主の兄弟ヤコブとは一体どんな人物だったのでしょう。この点は、エウセビオスの「教会史」に詳しいので、以下、同書の記録を辿ってみたいと思います。


エウセビオスは、ヘゲシッポス(紀元110年頃~180年頃・2世紀のキリスト教初期教父でユダヤ人キリスト者)の著作を引用する形で、「主の兄弟ヤコブは、使徒たちとともに教会を継承した。彼は、主のときから私たちの時代までのすべての人々から義人と呼ばれた。」と記録し、生まれながらのナジル人で民衆のために祈りながら神殿で生活したと言います。それゆえ、「彼の膝頭はらくだのように固くなった。彼は・・・義人(ディカイオスユネー)にして守護者(オーブリアス)と呼ばれた。」


 主の兄弟ヤコブは、パリサイ人や民衆からも広く義人として認められていたところ、当時あまりにイエスの弟子が増えていたので、彼らはヤコブを神殿の塁壁に立たせてイエスを否定してくれと懇願しました。しかし、ヤコブは、「大声で答えた『なぜ、おまえたちはわたしに人の子について尋ねるのだ。その方は天で大いなる力〔ある者〕の右に座し、天の雲に乗って来られようとしている。』多くの者がヤコブの証しに確信し、神の栄光をたたえて言った。『ダビデの子に、ホサナ。』」-これに怒ったパリサイ人らは、ヤコブを投げ落とし、石打ちにして殺しました(没年紀元62年)。「彼は、イエスがキリストであることを、ユダヤ人とギリシャ人の双方に証しした。そして、時をおかずウェスパシアヌスが彼らを包囲した」 「思慮あるユダヤ人でさえも、彼の殉教直後にエルサレムの包囲攻撃がはじまったのは、他のいかなる理由からでもなく、彼に対する犯罪のためである、と考えた。」-これがエウセビオスの残した主の兄弟ヤコブについての記録です (エウセビオス「教会史Ⅱ(23)」『秦剛平訳・教会史1(山本書店)』120-124頁)。


以上から分かる通り、主の兄弟ヤコブやエルサレム教会に集うユダヤ人信者らは、その敬虔な信仰ゆえに、ユダヤ人民衆やパリサイ派に幅広く尊敬されていました。主の兄弟ヤコブは、ペテロやパウロのように、「イエスがキリストであることを、ユダヤ人とギリシャ人の双方に証しした」のであり、その結果として、イエスやステパノと同様に、「父よ、彼らをお許しください」と祈りつつ 、パリサイ派や民衆の手によって殉教していったのです。


4 初代教会の在り方を、ヘブライズムとヘレニズムの相克という観点において捉え、特にペテロや主の兄弟ヤコブとパウロの関係をヘブライオイ対ヘレニスタイとして対立的に捉える見方は、決して成り立ちません。むしろ初代教会というのは、当初から12使徒たちやパウロ、そしてその弟子たちであるユダヤ人信者のリーダーシップの下で、へブル的な基礎に根差した確固たる福音的正統主義において一致していたということであり、それはエルサレム教会であろうと、アンテオケ教会であろうと変わりはなかったのです。


 もちろん使徒たちも人間ですから、完全かつ常に、全ての点で一致していたわけではありませんでした。時には対立することもあったし(ガラテヤ2:11-)、時には喧嘩のようになってしまったこともありました(使徒15:37‐)。しかし、福音の本質において彼らは全くぶれることはなく、多様な働きが展開される中、御霊によってもたらされる恵みによって大いに一致していきました。私たちも近視眼的な視野に立って違いばかりを強調するのではなく、むしろ大きな川の流れのような主のご計画を深く悟り、御霊によって豊かな一致へと導かれることを祈りましょう。


 
 
 

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