top of page
検索

ティクーン・ディボーション No.16

  • tikkunjppartner
  • 2021年6月1日
  • 読了時間: 6分

更新日:2021年7月2日

2021年5月31日


ヘブル9:15 こういうわけで、キリストは新しい契約の仲介者です。それは、初めの契約のときの違反を贖うための死が実現したので、召された者たちが永遠の資産の約束を受けることができるためなのです。

9:16 遺言には、遺言者の死亡証明が必要です。

9:17 遺言は、人が死んだとき初めて有効になるのであって、遺言者が生きている間は、決して効力はありません。

9:18 したがって、初めの契約も血なしに成立したのではありません。



トーラーの巻物:https://en.wikipedia.org/wiki/File:Open_Torah_scroll.jpg


1 今日は、契約という「言葉」についてお話ししようと思います。「何だ、言葉だけの問題じゃないか」と思われる方も少なからずいらっしゃるかもしれませんが、興味が趣けば、お付き合いくだされば幸いです(ということで、今日のテーマは、軽く聞き流してくださって結構です。。。)


英語では、聖書における「契約」を表す言葉として covenantという言葉を使います。日常用語であるcontract が一般的に「合意」(agreement)や「取引」(deal) を含意するのに対して、covenantというと、より道徳的な含意-「誓約」というニュアンス-を帯びてきます。その由来は、古代において、相互に血を流し、自らの約束の履行を確実に保証する(自分のいのちにかけて保証する)ことによって始めて拘束力ある契約として認められたことにさかのぼります。


 聖書においても、そのような契約原理がはっきりと記されています(たとえば出エジプト24:7-8)。もともと、ヘブル語のBerit(Berit karat:契約を締結する)という言葉自体が「切る」という意味を持っています。また、一昔前の西欧では、契約を結ぶのに、契約書に真っ赤な蠟を垂らして、そこに印章(seal)を押すということがされていましたが、それは古代契約の名残です。ですから、英語で新約聖書、旧約聖書というときには、このcovenantという言葉を使うのがふさわしいようにも思います。ところが、英語で新約聖書や旧約聖書という時は、New testamentとか、Old testamentといいますね。Testamentという言葉は、より具体的に「遺言」という意味を表します。なぜ、このようなことになったのでしょうか。


2 より直接的には、それは、ラテン語聖書(ウルガタ訳)が、「契約」という言葉をTestamentumと訳したことに起因するものと思われます。すなわち、ラテン語では、新約聖書を Novum Testamentum、旧約聖書をVetus Testamentum と呼びますから、英語もこの言い方を承継したものと思われます。もちろん、ラテン語で、それは「遺言」を表す言葉です。新約聖書中、特に「遺言」を表す言葉が用いられているのは、ヘブル書9章15節―17節ですが、特にヘブル9章16節を挙げるなら、それは「遺言には、遺言者の死亡証明が必要です/Ubi enim testamentum est, mors necesse est intercedat testatoris.」と表されます。しかし、少なくとも聖書の中では、Testamentumは、もっと広く「契約」(covenant)を表す言葉として、より一般的に使われています(例えば、ローマ9章4節「…契約も…彼らのものです。」は、‘qui sunt Israelitae, quorum adoptio est filiorum, et gloria, et testamentum, et legislatio, et obsequium, et promissa’と表されます)。そして、この事情は、ギリシャ語においても同じです。ギリシャ語でdiathekeh(契約)と言うとき、それは「死期にある人の財産処分」、つまり「遺言」という意味合いを含んでいますが(上記ヘブル9:16参照)、より広く一般的な「契約」(covenant)の訳語としてもdiathekehという言葉が使われます(上記ローマ9:4参照)。


 ところが、英語でtestamentというとき、特に法的な意味での「遺言」(will)の意味が強く出てしまいます。covenantという、やはり「契約」を表す古い言い方があるのですから、わざわざtestamentというと、covenantとは別の、やや特殊な意味に理解されることになります。


3 ところで、ユダヤ人から見れば、新約聖書はB’rit Hadashah(ベリット・ハダシャー)と言い表されることになります。そして、これはまさにエレミヤ書31章31節の表現である「新しい契約」をそのまま引きうつしたものなのですが、実は、少なくとも聖書時代には、Beritに「遺言」というニュアンスは含まれていませんでした(*1)。ですので、「新約聖書を英語で表現するときには、ぜひThe book of New Covenantという言葉を用いてもらいたい」という方もいるぐらいです(メシアニック・ジューであるDavid Stern訳/Complete Jewish BibleのIntroduction 19頁参照)。新約聖書が「古い、過ぎ去っていく」旧約聖書の代替物などでは決してなく、むしろ旧約聖書の延長線上にあること(エレミヤ31:31の預言の成就である!)を強調したいというのが、その心なのでしょう。ちなみにユダヤ人は、「旧約」聖書とは言わず、TaNaKh (タナッハ:トーラー[モーセ五書]、ネヴィーム[預言者]、ケトゥビーム[諸書]の頭文字をそれぞれ取った表現)、あるいは単に「ヘブル聖書」と言い表します。


4 確かにそのような主張も十分理解できます。ただ、私には、新約聖書を英語でNew Testamentと表現することには、案外、重要な意味があるのかもしれないと思えてきます。それはヘブル書において、イエス様の十字架の御業を「遺言」と捉えたことにこそ、パウロの本質的な福音理解が見事に表されていると思うからです(*2)。


遺言は、遺言者の意思をもって、相続財産を誰に帰属させるかを、任意に-自由に-決定することを認める制度です。そして、神の御子であり、来るべき御国の主権者であるお方が「遺言者」となり、自らの死をもって、ご自身を信じる者-ユダヤ人であれ、異邦人であれ-に御国を相続させるという「遺言」をなされた-それは一方的な恵みによる-このような捉え方は、確かにユダヤ人の伝統的な契約理解には収まりきらないのかもしれませんが、そこにこそ「福音の奥義」が啓示されている、と思うのです。あるいは、このような啓示は、生粋のユダヤ人であると同時に、当時のギリシャ=ローマ世界の法律や制度に十分精通していたパウロだからこそ理解し得た啓示と言えるかもしれません。しかし、このような奥義を受け留める器としてパウロを選ばれたのも、実に神様であったのです。


 こういう議論は、私たち日本人にはあまりピンと来ないかもしれませんが、案外、言葉だけの問題だと思われるこの種の議論にも、その背後には深い神の摂理があるのかもしれません(英語の肩を持つわけではありませんが)。私たちの人生にも、同じように、一見重要ではないと思われることの背後に、実は良き神様の摂理的なご意志を発見することができるのかもしれません。全能の恵み深い神様の子供とされていることを心から感謝します。


(*1) 正確に「遺言」を表す言葉は聖書ヘブル語にはないようです。現代ヘブル語では、それはratsonとか、tsavahというように表現されますが、ratsonという言葉が聖書で使われるときは「思いのままに、意志に従って」という別の意味合いで使われることになりますし、tsavahという言葉はそもそも聖書では使われていないようです。あるいは「遺言」という制度自体が、古代イスラエルでは未発達だったのかもしれませんね。この辺のことに詳しい方がいらっしゃれば、ぜひご教示ください。。。

(*2)もっともヘブル9章15-17節のdiathekehをどう訳すかは、聖書翻訳者たちを大いに悩ませているようです。例えば、新改訳2017では、9章15節の本文で「契約」と訳し、16-17節の本文で「遺言」と訳しながら、それぞれの脚注において「遺言」また「契約」と訳す別訳を表しています。

 
 
 

最新記事

すべて表示
ティクーン・ディボーション No.28

2021年8月31日 出エジプト34:5 主は雲の中にあって降りて来られ、彼とともにそこに立って、主の名によって宣言された。34:6 主は彼の前を通り過ぎるとき、宣言された。「主、主は、あわれみ深く、情け深い神、怒るのにおそく、恵みとまことに富み、34:7...

 
 
 
ティクーン・デボーション No.27

2021年8月17日 黙 19:1 この後、私は、天に大群衆の大きい声のようなものが、こう言うのを聞いた。 「ハレルヤ。救い、栄光、力は、われらの神のもの。2 神のさばきは真実で、正しいからである。神は不品行によって地を汚した大淫婦をさばき、ご自分のしもべたちの血の報復を彼...

 
 
 
ティクーン・デボーション No. 26

2021年8月9日 創世紀 17:1 アブラムが九十九歳になったとき主はアブラムに現れ、こう仰せられた。「わたしは全能の神である。あなたはわたしの前を歩み、全き者であれ。17:2 わたしは、わたしの契約を、わたしとあなたとの間に立てる。わたしは、あなたをおびただしくふやそう...

 
 
 

Comentarios


bottom of page